相続人が行方不明で相続が止まった方へ。不在者財産管理人・失踪宣告・空き家管理と売却の実務をやさしく整理しました。目次を見て必要なところから読んでみてください。

目次
  1. 事例概要:70歳、相続人が行方不明で相続手続きが止まったケースの全体像
    1. 家族構成・資産の内訳(不動産・預貯金)と何が止まっているか
    2. 行方不明の期間・連絡経路・探索実績の整理ポイント
    3. どの局面で「相続人不明」が法的な壁になるのか(登記・売却・金融機関)
    4. 遺産分割協議が成立しない理由と有効性の要件
    5. 金融機関手続き・相続登記・不動産売却に及ぶ影響
    6. 税務(相続税・固定資産税)と管理責任の注意点
    7. 住民票・戸籍・附票の追跡と公的端緒の集め方
    8. 親族・勤務先・ライフライン等への照会履歴の記録化
    9. 警察届出・失踪届では足りない点と限界
    10. 申立要件・必要書類・申立先と流れ
    11. 管理人にできること/できないこと(同意・売却・保全)
    12. 期間と費用の目安・予納金の考え方
    13. 実務で併用される遺産分割調停・許可申請の関係
    14. 相続財産管理人選任が適切な場面
    15. 公示送達で進める調停・審判の使いどころ
    16. 特別代理人・選任申立との違い
    17. 0〜90日:探索と証拠化/申立準備
    18. 3〜6か月:選任後の許可取得・資産保全
    19. 6〜12か月:分割成立・登記・売却・税務完了
    20. 管理義務・損害防止(修繕・保険・近隣トラブル予防)
    21. 差し迫る固定資産税・維持費への対処
    22. 売却タイミングと価格下落リスクの見極め
    23. 委任状・受任範囲の設計と進捗管理
    24. 書類・連絡ログ・費用台帳のテンプレ活用
    25. 家族間連絡のルール化(代表者・頻度・意思決定)
    26. 選択肢の比較検討と意思決定プロセス
    27. 具体的なスケジュール・費用・結果(数値例)
    28. つまずきポイントと回避策
    29. 何年待てば失踪宣告できる?不在者財産管理人で代替できる?
    30. 探索はどこまで必要?どの程度で“尽くした”といえる?
    31. 売却代金はどう保管する?配当はいつ可能?
    32. 途中で行方不明者が見つかったらどうなる?
    33. ケース別の使い分け指針(当面の現金化/長期見据え)
    34. 迷ったら「証拠化→申立→許可取得」の王道手順

事例概要:70歳、相続人が行方不明で相続手続きが止まったケースの全体像

「相続人が行方不明で、相続手続きが一歩も進まない」——そんなご相談は少なくありません。相続人行方不明は、登記や解約、売却のあらゆる場面で壁になります。ここでは全体像を整理し、どこで止まり、何から着手すべきかを実務の目線でまとめます。私、めーぷる岡山中央店の星川あきこが、最初の一歩を一緒に描きますね。

家族構成・資産の内訳(不動産・預貯金)と何が止まっているか

まずは「誰の相続で、誰が相続人で、財産は何か」を見取り図にします。ここが曖昧だと、後の手続きが二度手間になります。

【ケースの前提(例)】

  • 被相続人:母(単独名義の自宅あり)
  • 相続人:長男(同居・申立て担当)、次男(行方不明・10年連絡なし)
  • 主な遺産:自宅(土地建物)、普通預金、定期預金、少額の有価証券

【どこが止まっている?】

  • 遺産分割協議:相続人全員の合意が必要。行方不明者の署名押印が得られず成立不可
  • 相続登記(名義変更):分割協議書がないため申請できない
  • 金融機関解約:相続人全員分の書類が揃わず凍結状態
  • 不動産の売却・賃貸:処分行為に全員の同意が要るため進められない

表:資産ごとの「止まりポイント」と必要書類(概要)

資産区分目的典型的に止まる理由主要書類の要件
不動産相続登記・売却分割協議不成立分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明)
預貯金解約・払戻し相続手続書類が不備相続関係説明図、戸籍一式、分割協議書
証券名義変更・換金同意欠如取引先指定書式+分割協議書
動産(家財等)形見分け・処分誰が決めるか不明確分割協議の合意(メール記録でも目安に)

ポイント:全資産に共通して「相続人全員の同意」が鍵です。同意できない=一括で止まるため、まずは「同意の代替手段」を検討します。

この章を読んだらやること

  • ✅ 家族構成(相関図)と資産目録を1枚に整理
  • ✅ どの資産がどの書類で止まっているかを可視化

行方不明の期間・連絡経路・探索実績の整理ポイント

裁判所に申し立てる際、「探したけれど見つからない」ことの証拠化が重要です。感覚的な説明では足りません。行方不明の期間・連絡手段・探索履歴を、時系列で残しましょう。

整理のコツ

  • 期間の特定:最後に連絡が取れた日付、最終のSNS・メール・通話記録。
  • 連絡経路:電話・メール・SNS・手紙・実地訪問など、経路ごとに結果を記録。
  • 公的な足取り:住民票の附票(住所履歴)、戸籍の本籍移動、転出入の有無。
  • 第三者への照会:親族、元勤務先、管理会社、ライフライン(電気・ガス・水道)への在籍・契約の有無。
  • 警察届出の位置づけ行方不明者届=探索の一要素。ただし、これだけでは手続きの代替にはならないことを理解。
  • 記録の形式:日付・先方・方法・結果をチェックリスト型で。メールや封書は写しを保管。

簡易テンプレ(抜粋)

日付連絡方法先方結果添付
2023/6/10電話次男携帯不通通話履歴
2023/7/01住民票附票取得市区町村転出先不明取得写し
2023/8/15親族Aに照会従兄数年前から不明メモ

ポイント「尽くした」可視化が、裁判所の判断を後押しします。結果が空振りでも意味があります。手間ですが、ここを丁寧に。

この章を読んだらやること

  • ✅ 直近6〜12か月分の探索ログを作成
  • ✅ 戸籍・附票など公的資料の取得順序を決める

どの局面で「相続人不明」が法的な壁になるのか(登記・売却・金融機関)

行方不明の相続人がいると、「処分」や「解約」に関わる局面が軒並み停止します。理由は単純で、相続人全員の関与が前提だからです。具体的には次のとおりです。

主なボトルネック

  • 遺産分割協議:一人でも欠けると無効リスク。書面の形式要件も厳格。
  • 相続登記(名義変更):分割協議書がないと登記申請ができない。令和の制度改正で登記義務化が進む流れの中、遅延は不利。
  • 不動産の売却・賃貸:売買契約は処分行為。全員の同意か、不在者財産管理人(家庭裁判所が選ぶ代理人)の関与+許可が必要。
  • 金融機関手続き:各行の相続手続きは相続人全員の署名押印が基本。例外運用は限定的。
  • 税務・維持管理:固定資産税や保険、修繕は待ったなし。ただし、誰が支払うか・立替精算の根拠を記録しておく。

対処の方向性(概要)

  • 短期の安全確保:空き家の保全、保険の確認、最低限の支払い継続。
  • 法的な前進策
    • 不在者財産管理人の選任申立て(行方不明でも進めるための中核手段)
    • 公示送達や調停の活用(連絡が取れない相手への手続的アプローチ)
    • 失踪宣告(原則7年行方不明で死亡とみなす制度。長期戦の選択肢)

結論:相続人不明は、合意・登記・解約・処分の全工程で足止めになります。だからこそ、探索の証拠化→家庭裁判所での手段選択が王道です。

この章を読んだらやること

  • ✅ 止まっている工程を「合意・登記・解約・処分」に分類
  • 不在者財産管理人失踪宣告、どちらを軸にするか家族で方向づけ

相続人が行方不明だと何ができなくなる?法的ボトルネックの整理

「相続人 行方不明」で止まるのは、感覚ではなく要件が満たせないためです。めーぷる岡山中央店の星川あきこです。ここでは、遺産分割協議・相続登記・金融機関・売却の各局面で、どこに壁が立つのかを実務目線で整理します。先に全体像を押さえ、次に打ち手を選びましょう。

遺産分割協議が成立しない理由と有効性の要件

遺産分割協議は、相続人全員の合意が前提です。ひとりでも欠けると、合意自体が成立しません。行方不明は「反対」ではなく不在。だからこそ、協議書を作っても有効性に欠けるのです。

協議が無効・不成立となる主な理由

  • 相続人の欠缺:一人不明でも全員合意が未充足です。
  • 範囲の不備:相続人の漏れ・認定ミス(再婚・認知などの見落とし)。
  • 方式の不備:書面の署名・実印・印鑑証明が揃わない。
  • 意思表示の瑕疵:代理人の権限が曖昧、本人確認が不十分。

有効な遺産分割協議書の要点(実務チェック)

  • 相続関係の確定:戸籍一式+相続関係説明図で全員確認
  • 対象財産の特定:不動産は所在・地番・家屋番号、預貯金は金融機関・支店・口座番号まで。
  • 全員の署名押印:実印+各人の印鑑証明書
  • 日付と原本管理:成立日を明記、原本は複数作成し長期保管

ここでの打ち手

  • 不在者財産管理人の選任(家庭裁判所の制度。不在者の利益保護と協議参加を代替)
  • 公示送達+調停・審判の併用(連絡不能時の手続きルート)
  • 失踪宣告(原則7年で死亡擬制。長期戦の最終選択肢)

✅結論:「全員の合意」という壁を越えるには、裁判所手続きで代替するのが現実的です。

金融機関手続き・相続登記・不動産売却に及ぶ影響

行方不明は、解約・名義変更・処分の各工程で止まります。理由は相続人全員関与の要件と、金融機関・法務局の実務運用にあります。

影響の全体像(どこで止まり、何が要るか)

手続きどこで止まるか典型的に求められるもの代替・突破口
預貯金の払戻し相続人全員の同意欄が空欄戸籍一式、相続関係説明図、遺産分割協議書不在者財産管理人選任→同意・払戻し手続き
投資商品の換金売却・払戻しの同意金融機関指定書式+協議書管理人の必要処分許可で実行可
相続登記(名義変更)申請書の添付不足協議書、登記原因証明情報管理人関与の協議/審判確定書で代替
不動産の売却売買は処分行為で同意必須全員合意、委任状管理人+家庭裁判所の許可で実行可能
賃貸・一時使用利益相反・権限外の恐れ合意・委任管理人の管理行為として許容される範囲で可

実務の注意

  • 金融機関は独自基準が細かいです。書式や必要書類は支店で事前確認が鉄則です。
  • 売却代金の保管は、管理人名義の供託・別口座で区分管理が基本。
  • スピード感を出すには、探索記録を整えて申立書の説得力を高めるのが近道です。

✅結論:同意が取れない領域=停止管理人+裁判所許可で段階的に動かすのが王道です。

税務(相続税・固定資産税)と管理責任の注意点

相続人が不明でも、税や管理は待ってくれません。期限や責任の所在を押さえ、立替と精算の根拠を残しましょう。

押さえるべき論点

  • 相続税の申告期限:原則10か月。不明者がいても期限は進みます。必要なら延納・物納更正の請求を視野に。
  • 準確定申告:被相続人の所得税は4か月以内。漏れやすいので担当を決めます。
  • 固定資産税:名義が変わらなくても毎年発生。納税通知書の受け口を確保し、立替台帳で見える化。
  • 空き家の管理責任:倒壊・漏水・害虫などの損害防止義務。保険(火災・施設賠償)の継続を確認。
  • 費用の性質:修繕・保険・固定資産税等は相続財産の保存費用として、後日精算対象にできます。

ミニチェックリスト

  • ✅ 税の期限カレンダーを作成(10か月/4か月の2本柱)
  • ✅ 固定資産税・保険の支払いを自動化し、立替台帳に記録
  • ✅ 空き家の目視点検と鍵管理、近隣への連絡先明示
  • ✅ 必要に応じて管理人選任申立てで保全と費用支出の根拠を確保

✅結論:税と管理は止めずに走らせる。支払いと記録を続け、後で公正に清算できる形に整えておくことが、結果的に家族を守ります。

まず着手する探索と証拠化:行方不明者の所在調査

「探したけれど見つからない」を伝えるには、感情ではなく証拠が必要です。最初に集めるのは公的資料(住民票・戸籍・附票)、次に民間の足取り(親族・勤務先・ライフライン)。最後に警察届の位置づけを整理します。順番を決め、淡々と記録化していきましょう。私も横でチェック表を一緒に作るつもりでご案内します。

住民票・戸籍・附票の追跡と公的端緒の集め方

最短で芯を取りにいきます。まずは戸籍一式で相続人を確定し、住民票の附票(住所履歴)で足取りをたどる。ここがズレると、後工程が総崩れになります。

公的資料の取り方・使い方(実務版)

資料何が分かるか取得先・請求者申請のコツ注意点
戸籍(全部事項)相続人の範囲・続柄・本籍の変遷本籍地の市区町村/法定相続人等出生から死亡までの連続取得婚姻・認知の見落としに注意
戸籍の附票本籍に紐づく住所の履歴本籍地期間指定で過去分を請求保存年限により古い履歴が欠落も
住民票(除票含む)住民登録の現住所(過去含む)住民登録地職務上請求事由を明示(相続手続き)除票は保存年限に注意
不在住・不在籍証明その市区町村にいない証明該当市区町村転出先不明」の裏取りにピンポイントで使う

申請理由の書き方の要点

  • 目的を具体化:「相続人の所在確認のため」「家庭裁判所への申立資料のため」
  • 関係性を明記:「被相続人の長男・法定相続人」など

小さなつまずき対策

  • 保存年限で古い履歴が取れない→本籍・住所の両方の附票を当たり、断片をつなぐ。
  • 本籍が分からない→直近の住民票の附票から本籍手がかりを拾う。
  • 役所で断られた→目的と相続関係の説明資料(相続関係説明図・死亡の戸籍)を添付。

この節を読んだらやること

  • ✅ 戸籍は出生〜現在の連続取得を指示
  • ✅ 住民票の附票(現住所・本籍側)を双方請求
  • ✅ 相続関係説明図を1枚で作り、更新日を入れる

親族・勤務先・ライフライン等への照会履歴の記録化

公的資料で足が途切れたら、民間の足取りを丁寧に。ここで重要なのは結果が空振りでも記録すること。裁判所が見るのは“結果”だけでなく探索の尽力です。

記録化テンプレ(コピーして使えます)

日付先方(関係)連絡方法要点結果添付
2025/03/10従兄(親族)電話最終接触時期の確認2018年以降不明通話履歴
2025/03/15旧勤務先書面退職時期・連絡先照会回答なし発送控え
2025/03/20管理会社メール旧住所の退去日確認2020/5退去返信印刷
2025/03/25電力会社書面契約継続の有無取次不可申請控え

実務メモ

  • 連絡手段は分散(電話・書面・メール)。同一先でも時期を変えて複数回
  • 質問は限定:「最終連絡時期」「退去日」「郵送物の転送」など事実のみに集中。
  • 個人情報の壁:ライフラインや勤務先は原則開示しません。回答不可の通知も“探索の証拠”になります。
  • 封筒面の写し、配達記録、メールヘッダーなど形式的証拠を残す。

この節を読んだらやること

  • ✅ 直近6〜12か月ぶんの探索ログをまとめる
  • ✅ 「誰に・いつ・どうやって・何を聞いたか」を1行で言語化
  • ✅ 不達・沈黙も結果として記録

警察届出・失踪届では足りない点と限界

「警察に届けたから大丈夫」——ここがよくある誤解です。行方不明者届(捜索願)は大切ですが、家庭裁判所の判断を代替する資料にはなりません。役割の違いを押さえましょう。

押さえるべきポイント

  • 目的の違い:警察は保護・安全確認が主目的。相続・登記・売却の同意代替にはならない。
  • 情報開示の限界:警察から所在情報は原則非開示。届出受理番号の写しは“探索の一部”として添付。
  • 裁判所手続きの要:不在者の利益を守りつつ手続きを前に進めるには、不在者財産管理人の選任公示送達・調停が必要。
  • 失踪宣告のハードル:原則7年の不在(特別失踪は災害・事故など)。緊急の資産処分には不在者財産管理人+許可が現実的。

現実解(最短ルート)

  1. 公的資料で所在履歴を固める
  2. 探索ログで尽力を可視化
  3. 家庭裁判所へ申立て(管理人選任)
  4. 必要に応じて許可申請で売却や払戻しへ

この節を読んだらやること

  • ✅ 警察届は受理番号・届出日を記録し写しを保管
  • ✅ 次の一歩として管理人選任の申立書案を作りはじめる
  • ✅ 「失踪宣告は長期戦」—短期は管理人+許可軸で設計

手続きを前に進める中核選択肢① 不在者財産管理人の選任(家庭裁判所)

「相続人が行方不明のままでは、合意も登記も動かない」。そこで現実解になるのが不在者財産管理人です。家庭裁判所が第三者を選び、不在者の利益を守りつつ同意や処分を代替できます。ここでは、申立ての要件から費用・期間、併用手続きまで一気に整理します。

申立要件・必要書類・申立先と流れ

要件の芯はシンプルで、①対象者が長期間所在不明、②財産の管理・手続きに支障が出ている、の2点です。証拠は探索ログ+公的資料で固めます。

申立てに用意する主な書類

  • 申立書(事情・目的を具体化)
  • 戸籍・住民票・附票(所在追跡の裏づけ)
  • 探索の記録(照会履歴・不達記録・受理番号等)
  • 財産目録(不動産登記事項、預貯金残高、保険等)
  • 相続関係説明図(誰が相続人かを一枚で)
  • 予納金関係書類(金額案内、郵便切手等)

申立先と標準フロー

  1. 管轄家庭裁判所へ申立て(被相続人の最後の住所地が目安)
  2. 裁判所の審理・照会(不足資料の補充)
  3. 管理人の選任審判(弁護士等が選ばれるのが一般的)
  4. 就任・引継ぎ(財産の把握、通帳・鍵・書類の受領)
  5. 必要に応じて許可申請(売却・払戻し等の処分行為)
  6. 定期報告・精算(区分管理・費用の清算)

✅ここまでの結論:「探索の証拠化→申立→選任」の一直線。書類の説得力が審理の速さを左右します。

この章を読んだらやること

  • ✅ 探索ログと財産目録を最新化
  • 相続関係説明図を一枚で整備
  • ✅ 管轄裁判所と予納金の目安を電話で確認

管理人にできること/できないこと(同意・売却・保全)

不在者財産管理人の権限は、管理行為は原則OK/処分行為は許可が必要、が基本線です。線引きを把握すると、申請の順番がブレません。

できること(典型例)

  • 管理・保存行為:通帳・権利証の保全、保険継続、軽微な修繕
  • 情報収集:残高照会・評価取得・明細取り寄せ
  • 賃料や果実の受領:既存賃貸の管理、滞納催促
  • 調停・審判への関与:不在者の立場で遺産分割調停に参加

許可が必要なこと(処分)

  • 不動産の売却・解体、新規賃貸(期間・条件により)
  • 預貯金の払戻し・解約、有価証券の売却
  • 訴訟提起・和解(事件性による)

できないこと(禁止・制約)

  • 本人の意思決定の完全代替(利益相反は厳格回避)
  • 勝手な分配・贈与(清算・配当は裁判所の枠組みで)
  • 権限外の長期契約(将来拘束が大きい契約は原則不可)

運用のコツ

  • まずは評価・査定・残高照会で事実を固め、次に許可申請へ。
  • 売却は価格の相当性(複数査定・相場資料)で許可が通りやすくなります。
  • 代金は区分口座・供託で厳密に分離管理。

✅ここまでの結論:管理は即時、処分は許可。段取りを分けるだけで前進スピードが上がります。

この章を読んだらやること

  • ✅ 「管理」「処分」「報告」にToDoを仕分け
  • ✅ 売却を狙うなら査定2〜3本を同条件で取得
  • ✅ 払戻しは目的明確化(税・保全費用等)で申請

期間と費用の目安・予納金の考え方

裁判所・財産規模・資料の完成度でブレますが、おおまかな目安を持っておくと計画が立てやすいです。

期間のイメージ(目安)

フェーズ期間の目安ボトルネック短縮のコツ
申立準備2〜6週間戸籍・附票の収集、探索整理早期に出生〜死亡の連続戸籍を取得
選任審理3〜8週間補正対応、候補者調整不足ゼロで初回申立て
許可申請2〜6週間相場資料・必要性の説明複数査定+用途明確化
売却・払戻し実行1〜3か月契約・決済・名義変更事前に書式・必要書類を確認

費用のイメージ(概算)

費目目安備考
収入印紙・郵券数千円〜事件種別・管轄で変動
予納金20万〜50万円程度財産規模・調査範囲により上下
管理人報酬数十万〜事案の難度・期間で裁判所が相当額を決定
売却関連費査定・登記・仲介等実費+成功時の報酬が中心

予納金の考え方

  • 調査・通知・公告等の原資。大きめに積んで不足を避け、余剰は清算返還
  • 先に資産の流動性(預金の有無)を把握し、キャッシュ化までのつなぎ資金を見積もる。

✅ここまでの結論:期間は数か月単位、費用は数十万円単位が一般的。探索の精度と書類の完成度で短縮が可能です。

この章を読んだらやること

  • ✅ 自分の地域の予納金相場を裁判所に確認
  • ✅ 期間表を家族と共有(税の期限と重ねる)
  • ✅ つなぎ資金の手当て計画を作成

実務で併用される遺産分割調停・許可申請の関係

管理人を選任しただけではゴールではありません。遺産分割調停個別の許可申請並走させることで、停滞を減らせます。

併用の型(よくある流れ)

  • 型A:先に売却資金を確保
    1. 管理人選任 → 2) 売却許可 → 3) 売却・代金区分管理 → 4) 分割調停で配分協議
  • 型B:先に配分の枠を固める
    1. 管理人選任 → 2) 遺産分割調停で方針合意 → 3) 必要な売却・払戻しを許可申請

調停・許可を通すコツ

  • 必要性の明確化:固定資産税・老朽化・事故リスク等、保全の必然性を数字で。
  • 価格の相当性:査定複数本、近隣成約、路線価・公示地価など客観データ
  • 配慮義務:不在者の不利益にならない配分案・期限管理、報告の透明性。

最後に——星川からひとこと

  • 最短ルートは「証拠化→選任→許可」。途中で迷ったら、目的(保全・換価・配分)を一行で言えるかを確認しましょう。言えれば、次の書類が決まります。

もう一つの選択肢:相続財産管理人・公示送達・調停等の補助ツール

不在者財産管理人だけでは動かしにくい場面があります。相続人全体の不明・連絡不能や、相手方への送達ができないときは、相続財産管理人・公示送達・特別代理人といった補助ツールを組み合わせると前に進みます。星川が実務の使いどころを具体的に整理します。

相続財産管理人選任が適切な場面

相続人全員が不明または相続放棄により管理者不在など、遺産そのものに管理者がいないときの“全体管理”の切り札です。目的は、遺産の保全・換価・債権者対応を中立的に進めること。
主に次のようなときに相性が良いです。

  • 相続人が誰も分からない/連絡不能が多数
  • 固定資産税・保険・修繕などの保存費用を誰も決められない
  • 空き家・貸家の危険性が高く、早期の保全措置や換価が必要
  • 債務・滞納があり、配当の枠組みが要る

相続財産管理人でできる主なこと

  • 遺産の一体管理・換価・配当(公告・債権届出を経て公平に配分)
  • 必要な売却・解約の実行(許可が前提)
  • 未知の相続人探索・公告による関係者の把握

申し立ての勘所

  • 遺産目録と危険性(老朽化・滞納など)を具体化
  • 費用原資の見込み(預金・売却予定)を示す
  • 公告・配当までの道筋をタイムラインで提示

この節を読んだらやること

  • ✅ 相続人の把握状況を一覧化(確定/不明/連絡不能)
  • ✅ 保存費用・危険箇所を写真と数字で記録
  • 管理人選任の申立草案に、換価・配当の方針を一行で明記

公示送達で進める調停・審判の使いどころ

相手の住所が分からず書類が届かないと、調停・審判が進みません。そこで登場するのが公示送達。裁判所掲示などの方法で「送達があったものとみなす」制度です。連絡不能の相手を手続に乗せるための実務ツールと捉えてください。

使いどころ

  • 遺産分割調停で一部相続人に連絡がつかない
  • 管理人選任後の許可申請で関係人通知が必要
  • 登記や換価に関する審判で相手方の所在が不明

通しやすくするコツ

  • 探索の尽力を証拠化(戸籍・附票・照会履歴・不達封筒)
  • 宛先候補すべてに打診→不達記録を積み上げる
  • 公示後に備え、掲示期間と次回期日をカレンダーへ反映

留意点

  • 形式は満たしても、実質の相手理解は進まないため、後日の紛争再燃リスクに備え、価格相当性・配慮義務の記録を厚めに。

この節を読んだらやること

  • ✅ 公示送達用の不達セット(封筒・受領拒否・転送記録)を整理
  • ✅ 期日管理を家族共有のカレンダーで可視化
  • ✅ 主要資料(査定・写真・台帳)を同一フォルダで管理

特別代理人・選任申立との違い

特別代理人は、未成年相続人など利益相反があるときに、その子のために意思表示を代替する制度です。行方不明の代替とは目的が違います。混同しやすいので、要点を表で押さえます。

制度目的典型的な場面権限の範囲カギとなる要件
不在者財産管理人行方不明者の財産管理・処分の代替相続人の一部が不明・連絡不能管理行為は原則可、処分は許可所在不明+手続支障の疎明
相続財産管理人遺産全体の中立管理・換価・配当相続人不明・不在/放棄で管理者なし一体管理、公告、配当(許可前提)管理者不在の遺産があること
特別代理人利益相反の解消(未成年など)親と子が相続で利害相反事件限定で同意・和解利益相反+未成年等の存在
公示送達(手段)送達不能の解消住所不明で書類が届かない送達みなしのみ探索尽力+所在不明の疎明

実務判断の指針

  • 行方不明の一点突破なら不在者財産管理人
  • 遺産全体に管理者がいないなら相続財産管理人
  • 親子などの利益相反には特別代理人
  • どの制度でも送達が壁なら公示送達を重ねる。

この節を読んだらやること

  • ✅ いまのボトルネックを「管理者不在/所在不明/利益相反/送達不能」に分類
  • ✅ 制度の主語(誰のための何の代理か)を書き出す
  • ✅ 次の申立書のタイトルと目的を一行で言えるか確認

タイムラインで理解する実務の進め方(90日・6か月・1年の節目)

「結局、いつ何をやれば間に合うのか」。相続人行方不明の案件ほど、段取りの遅れが雪だるま式に効いてきます。この章では0〜90日/3〜6か月/6〜12か月の3区間で、やることを時系列に落とし込みます。証拠化→申立→許可→実行→精算の流れを一気通貫で押さえましょう。

0〜90日:探索と証拠化/申立準備

最初の90日で勝負が決まります。やることは所在探索の証拠化と、家庭裁判所申立の準備。ここで資料が揃えば、その後の審理が短くなり、余計な往復が減ります。

やること(優先順)

  • 相続関係の確定:出生からの戸籍一式、相続関係説明図を1枚で完成
  • 住所履歴の追跡:住民票・附票・除票、不在住不在籍証明の取得
  • 探索ログの作成:親族・勤務先・管理会社・ライフライン等への照会履歴(不達も保存)
  • 財産目録の整備:不動産(登記事項・評価)、預貯金(残高・支店)、保険・証券
  • 写真と数字の準備:空き家の劣化箇所、固定資産税・保険料の保存費用
  • 申立書ドラフト不在者財産管理人を主軸に、目的(保全・換価・配分)を一行で明記
  • 税の初動:相続税10か月・準確定申告4か月の期限カレンダーを家族で共有

ミニ表(提出書類の完成度チェック)

区分必須資料完成度目安
相続関係戸籍一式・説明図漏れなし、続柄確認済み
所在探索附票・不達封筒・照会記録時系列・証拠添付済み
財産登記事項・残高証明・評価最新月で統一

次の一歩

  • ✅ 申立書と証拠目録をセットで作成
  • ✅ 予納金の概算見積りを管轄へ確認
  • ✅ 税・固定資産税の自動支払と立替台帳を開始

3〜6か月:選任後の許可取得・資産保全

管理人選任後は二本立て。①管理・保全を止めない、②処分行為の許可を確実に取る。スピードを出したいなら、評価→許可→実行の順で並行します。

やること(時系列)

  • 就任直後1〜2週:通帳・権利証・鍵の受領、残高照会、保険継続の確認
  • 同時並行:不動産の複数査定(2〜3社)、近隣成約事例・路線価の収集
  • 許可申請:売却・払戻し等は必要性(老朽化・税負担・危険)価格相当性で説得
  • 公示送達の準備:連絡不能者がいる手続は不達証拠を整えて期日を前倒し
  • 管理行為:最小限の修繕・清掃、近隣クレームの窓口、代金の区分管理(供託・専用口座)

判断のコツ

  • 売却優先か保全重視かを最初に決める(雨漏り・傾斜・空き家条例があるなら売却許可優先
  • 金融機関の相続手続は支店ルールが細かい。書式・押印要件を事前確認してから申請

次の一歩

  • ✅ 査定書・写真・費用見積りを一式で許可申請に添付
  • ✅ 払戻しは使途(税・保存費)を明記して申請
  • ✅ 公示送達の掲示期間と期日を家族カレンダーに共有

6〜12か月:分割成立・登記・売却・税務完了

後半戦は成果物の回収です。許可が降りたら売却・払戻しを実行し、遺産分割(調停・審判)をまとめて、相続登記・税務を締め切ります。

やること(仕上げ)

  • 売買契約〜決済:決済チェックリスト(身分証・登記関係・残置物)で漏れゼロ
  • 代金の区分管理:管理人口座や供託で入出金の見える化、台帳と照合
  • 遺産分割の確定:調停成立・審判確定の正本・確定証明を取得
  • 相続登記:協議書または審判書を添付して司法書士と申請
  • 相続税申告:売却損益・費用を反映し、10か月以内を厳守
  • 精算・報告:管理人の計算書・報告書で終局。立替費用を保存費用として整理

仕上げのチェックリスト

  • ✅ 売却代金は混在禁止(私費口座と完全分離)
  • ✅ 裁判所への報告は証票添付で信頼度アップ
  • ✅ 税理士・司法書士の最終突合(金額・地番・名義)

まとめのひとこと(星川)

  • 前半90日で“証拠と設計図”を作る。中盤で許可を抜き、後半で回収と登記。このリズムを守るだけで、迷いは激減します。

不動産があるときの実務:空き家管理と売却可否

相続人が行方不明でも、空き家管理と固定資産税の対応は待ったなしです。ここでは、最低限の損害防止(修繕・保険・近隣対応)費用の管理、そして売却タイミングの判断軸を実務の順でまとめます。星川が現場で使うチェックを、そのまま型にしました。

管理義務・損害防止(修繕・保険・近隣トラブル予防)

空き家は「放置コスト」が見えにくいだけで、雨漏り・倒木・漏水・不法侵入など、損害の芽は日々育ちます。管理=リスクの先回り。まずは“今日できる対策”から。

最低限の初動(到着順)

  • 鍵・境界・火災保険の三点確認(合鍵の回収・破損箇所の写真・保険の継続)
  • 通水停止・ブレーカー遮断・水回り封水で臭気逆流と漏水を予防
  • 外構の危険除去(倒れそうな塀・樹木の剪定・郵便物の止め)
  • 近隣への連絡先掲示(ポスト内カード/玄関裏側など目立ちすぎない場所)
  • 残置物は“保存”扱いで勝手に処分しない(写真→目録→保管)

定期管理の目安(星川の簡易カレンダー)

頻度チェック項目具体行動記録化のコツ
毎月外観・雨樋・ポスト落葉清掃・郵便停止の再確認同アングルで定点撮影
季節ごと屋根・バルコニー・通気雨漏り跡確認・窓開け30分before/afterを並べ撮り
年1回シロアリ・配管点検口確認・床下簡易チェック見積書・写真を台帳に綴じる

保険・契約の見直し

  • 火災+施設賠償のセットを確認(他人にケガをさせた場合の補償)
  • 電気は契約容量を落とす/停止、ガスは閉栓、水道は止水
  • ✅ 修繕は緊急度>美観の順で。雨漏り・破損・倒壊リスクから着手

ひと言メモ:「写真・日付・領収書」=あなたの“盾”です。後日精算や説明の根拠になります。

差し迫る固定資産税・維持費への対処

固定資産税は相続人不明でも毎年発生。支払いを止めると延滞と信用リスクが積み上がります。ここはキャッシュ管理×証票管理で粛々と。

費用の見える化テンプレ

費目月額/年額の目安支払い方法台帳の記録欄
固定資産税年額(通知ベース)口座振替or納付書期別・領収印の写し
保険(火災・賠償)年額年払/分割証券番号・更新日
点検・清掃月〜季節単位請求書払事業者・作業写真
光熱(最小契約)月額小口座振替停止/縮小の控え

運用のコツ

  • 立替台帳を作り、支払日・金額・領収書を一枚に綴じる
  • ✅ 払戻し許可が取れたら、保存費用として精算の根拠に充当
  • ✅ 維持費が重い空き家は、短期許可→売却保有期間を縮めるのが定石

星川の合言葉:「払う・記す・返してもらう」——この順で迷いが消えます。

売却タイミングと価格下落リスクの見極め

悩みどころはここ。今売るか、整えてから売るか。判断は価格×期間×リスクの三点で“数式化”して決めます。

判断フレーム(シンプル版)

  1. 現況査定A(現状のまま売る)
  2. 修繕後査定B(最低限の手当て後に売る)
  3. 費用C(修繕・維持・税の合計/売却までの予想期間)
  4. 差益= B − A − Cプラスなら手当て後売却マイナスなら現況売却が合理的

よくあるケースの考え方

  • 雨漏り・構造劣化が顕著:買い手の融資が通りにくい→現況 or 解体前提でスピード重視
  • 外観だけ傷んでいる軽微修繕+清掃+測量で内見数が増え、Bが上がりやすい
  • 再建築不可・狭小・極端な郊外:市場の母数が少ない→価格感の合意形成を先に(複数査定+近隣成約で許可を通す)

価格下落のリスク管理

  • ✅ 売却までの“保有日数コスト”を月額で把握(税・保険・管理)
  • 梅雨・台風前に屋根・樋の応急処置(事故=値下げ要因)
  • 測量・越境有無を先に確認(不確定要素は買い手の値引きカード

実行ステップ(最短ルート)

  • 査定2〜3本を同条件で依頼→相場レンジを掴む
  • 売却許可の申請準備(必要性と価格相当性を資料化)
  • ✅ 内見前の最低限の整え(清掃・通気・雑草除去・写真の見栄え)

最後に星川から:“完全な正解”はありません。だからこそ、数字で比較→小さく試す→早く決める。この順で、価格の迷いは減ります。

70歳当事者の負担を減らす工夫:代理・委任・情報整理の型

「やらなきゃ」と分かっていても、移動・役所・電話だけで一日が終わります。ここでは、代理・委任・情報整理の仕組みを先に作り、当事者の負担を3割カットする実務の型をまとめます。星川が現場で使うテンプレをそのまま使ってください。

委任状・受任範囲の設計と進捗管理

委任は「とりあえず一枚」では足りません。受任範囲の明記進捗の見える化で、依頼側も受任側も迷いません。

委任の設計ポイント

  • 目的の一行定義:「相続手続(探索・申立・許可・登記)に関する一切の事務」
  • 範囲の具体化:役所請求、金融機関照会、裁判所申立、見積取得、費用立替の上限
  • 期限と更新3〜6か月で区切り、延長時はチェックリストで再合意
  • 身分証の扱い:写しの保管場所、閲覧権限、返却期限

委任の分担マトリクス(例)

役割主担当代行可否期限完了確認
戸籍・附票の取得親族代表可能〇月〇日写しを共有フォルダ
探索ログ作成受任者不可毎週更新週次報告で確認
家の管理(鍵/点検)親族A代行可月1回写真3枚提出
申立書ドラフト受任者不可〇月〇日PDF回覧で承認
予納金の手当て親族代表可能期日前振込控え保存

進捗管理のコツ

  • 週1回・15分の定例(電話/オンライン)で「やった/やってない」をだけ報告
  • ✅ タスクは粒度を小さく(「戸籍取得」ではなく「本籍地Aへ郵送請求」)
  • ✅ 期限前日アラートを家族カレンダーで自動化

書類・連絡ログ・費用台帳のテンプレ活用

「探した」「払った」を証拠化するのが後で効きます。テンプレ3点セットで“書く手間”を最小化しましょう。

1)書類フォルダの構成(そのまま真似してください)

  • 01_戸籍_附票(PDF写し+取得日)
  • 02_探索ログ(Excel/Googleシート)
  • 03_財産目録(不動産/預金/証券/保険)
  • 04_申立関連(ドラフト/受理書/補正)
  • 05_許可申請(査定・写真・相場資料)
  • 06_費用台帳(領収書PDF/通帳写し)
  • 07_報告書・精算(提出版/証票)

2)探索ログ(1行テンプレ)

日付先方方法要点結果添付
2025/04/05旧勤務先書面在籍/退職時期照会回答保留送付控え

3)費用台帳(保存費用の精算に直結)

日付費目金額支払方法根拠(請求書/許可)備考
2025/05/01固定資産税(第1期)35,000口座振替納付書写し立替
2025/05/18屋根応急修繕66,000振込見積・写真雨漏り対策

運用のツボ

  • ✅ ファイル名は「日付_内容_差分」で統一(例:2025-05-18_屋根修繕_請求書.pdf)
  • ✅ 写真は同アングルで撮影し、前後比較を作る
  • ✅ 台帳は月末締め→家族へPDF自動送付

家族間連絡のルール化(代表者・頻度・意思決定)

揉め事の多くは情報の非対称から生まれます。最初に代表者・頻度・決め方を決めて、余計な摩擦を防ぎます。

最小限のルール例

  • 代表者1名+副代表1名(病欠・旅行に備える)
  • 定例連絡:毎週/15分(アジェンダ固定:「進捗3件・決裁2件・次週タスク」)
  • 決裁ルール:原則全員合意、ただし保存費用・安全対策は代表者の即時判断可
  • 議事の残し方:グループメール/チャットで要点3行資料リンク
  • 感情の交通整理:要望は事実・数字に翻訳して合意形成(例:「値下げ反対」→「査定A〜Cの中央値との差」)

合意形成のショートカット

  • ✅ 争点は選択肢×根拠×期限で提示(例:「現況売却/軽微修繕/解体前提」+査定+申請期限)
  • ✅ 反対意見は代替案とセットで(「修繕なら費用〜万円、完成〜日」)
  • ✅ 既決事項はロック(ファイル名に「確定」タグ、後は変更理由と期日を記録)

星川からひとこと

  • 人は“曖昧”に疲れます。だから最初に枠を決める。枠が決まれば、書類は自動的に埋まります。迷ったら、「誰が/いつまでに/何を」の3つだけ決めましょう。

仮想成功事例:行方不明の兄がいるケースで遺産分割と売却を実現

「兄が行方不明で、家も口座も動かせない……」。そんな状態から不在者財産管理人→許可→売却→分割まで到達した仮想事例です。選択肢の比較→意思決定→数値の見える化の順で、70歳の当事者でも無理なく進められる道筋を示します。

選択肢の比較検討と意思決定プロセス

前提

  • 当事者:70歳の長男(実家の管理を担う)
  • 行方不明:次男(連絡断絶8年)
  • 遺産の主軸:自宅(築35年・空き家)、預金2口座

比較と結論(星川の伴走メモ)

  • 失踪宣告:確定すれば早いが、7年待ちが現実的でない。
  • 不在者財産管理人2〜6か月で動かせる見込み。売却許可を取れば現金化が可能。
  • 相続財産管理人:相続人は判明しているため過剰。今回は不採用

意思決定の手順

  1. 探索の証拠化(附票・照会ログ・不達封筒)
  2. 家庭裁判所へ申立(不在者財産管理人)
  3. 売却許可を先行取得(老朽化と固定資産税の負担増を理由)
  4. 代金の区分管理調停で配分枠を固める

具体的なスケジュール・費用・結果(数値例)

全体像(12か月以内の収束を狙う)

月数マイルストーン主要タスク費用の目安
0〜1か月申立準備戸籍連続取得・附票・探索ログ整備取得実費 約1〜2万円
1〜3か月管理人選任審理対応・就任・通帳/鍵の受領収入印紙/郵券 数千円
2〜4か月売却許可査定3社・相場資料作成・許可申請査定0円〜、郵券数千円
4〜6か月売買実行内見整備・契約・決済・代金区分管理片付/清掃 10〜20万円
5〜8か月調停成立配分割合の合意・確定書取得印紙/郵券 数千円
8〜10か月相続登記司法書士申請・名義整理登記費用 5〜10万円
10〜12か月税務完了相続税申告(必要時)・精算報告税理士報酬等 10〜30万円

数値の内訳(例)

  • 不動産:路線価・近隣成約から2,700〜2,900万円の相場帯
  • 選択:現況売却(軽微清掃のみ)。修繕見積15万円は費用対効果▲で見送り
  • 売却価格:2,800万円
  • 諸費用(概算):仲介手数料約96万円、登記等10万円、清掃15万円
  • 管理人関連:予納金30万円、報酬見込40万円(終局時裁判所決定)
  • 結果:
    • 代金2,800万円を管理人口座で区分
    • 調停で「長男:次男=1/2ずつ」を確定(法定相続)
    • 長男へ一時立替の保存費用(固定資産税・清掃)を先に精算
    • 相続登記完了→税務申告まで12か月で収束

効果

  • 固定資産税の将来負担を遮断
  • 空き家リスク(漏水・倒壊)を早期に解消
  • 現金化により医療・介護資金を確保

つまずきポイントと回避策

つまずき①:許可申請で「価格の相当性」説明が薄い

  • 回避:査定2〜3本+近隣成約の写し+路線価で三点支持。内見写真も添付

つまずき②:金融機関の相続手続きが支店ごとに違う

  • 回避事前に必要書類一覧を取り寄せ、押印・委任形式まで確認。期日前に窓口プレチェック

つまずき③:家の残置物で決済が遅延

  • 回避:売買契約前に残置物合意条項を入れるか、計量ごみ搬出の見積を契約書に添付

つまずき④:家族間の合意形成が停滞

  • 回避:争点を「選択肢×根拠×期限」で提示。反対には代替案をセットで求める

つまずき⑤:管理人報酬・実費の精算で揉める

  • 回避立替台帳+証票でガラス張り運用。報酬は裁判所決定額を基準に

星川からのまとめ

  • 結論ファースト:「今回は管理人→許可→現況売却が最短」。数字で腹落ちすれば、70歳の肩の荷は確実に軽くなります。迷ったら、“今月の一手”を一行で書き出してください。そこから次が決まります。

よくある質問(Q&A)

「相続人が行方不明のまま、何をどこまでやれば良いのか」。迷いやすいポイントを制度名の一言補足つきで整理します。星川が実務で頻出する質問に、結論→理由→次の一歩の順でお答えします。今日の不安を、ここでひとつずつ消していきましょう。

何年待てば失踪宣告できる?不在者財産管理人で代替できる?

結論:原則7年(普通失踪)。災害・事故などは1年(特別失踪)。ただし、待てない期間は不在者財産管理人で代替し、売却や払戻しは裁判所の許可で動かせます。
理由:失踪宣告は「死亡とみなす制度」。一方で不在者財産管理人は「本人が生きている前提で財産を守る代理」。
次の一歩:

  • ✅ 7年に満たない→管理人選任+許可申請の準備へ
  • ✅ 7年超え・災害等の心当たり→宣告申立の要件整理(最終消息の立証)

探索はどこまで必要?どの程度で“尽くした”といえる?

結論:公的資料+民間照会+不達証拠時系列で揃い、反応ゼロまたは所在特定不能を示せれば、実務上「尽力」と評価されやすいです。
目安(チェック3点):

  • 公的:戸籍連続・住民票/附票・不在住不在籍証明
  • 民間:親族・旧勤務先・管理会社・ライフラインへの複数経路照会
  • 形式証拠:不達封筒・受領拒否・メールヘッダー・捜索願の受理番号
    コツ:同一先へは手段と時期を変えて2回以上質問は事実のみ(最終連絡時期・退去日など)。ログは1行テンプレで。

売却代金はどう保管する?配当はいつ可能?

結論:売却や払戻しで得た金銭は、管理人の区分口座や供託で厳格に分けて保管。配当(分配)は、調停成立・審判確定など“根拠が確定”してから実施します。
運用の型:

  • 代金受領:管理人名義の専用口座に入金(私費と混在禁止)
  • 保管:通帳・入出金台帳・根拠資料を紐づけ管理
  • 配当開始:①遺産分割調停成立または審判確定、②相続財産管理人事件なら配当手続の公告・確定
    注意:保存費用(固定資産税・応急修繕・保険)は相続財産の保存費用として、証票添付で先行精算が可能です。

途中で行方不明者が見つかったらどうなる?

結論:不在者財産管理人の職務は原則終了方向。以降は本人の意思確認のうえ、協議・登記・精算をやり直す(または続行)ことになります。
ケース別の流れ:

  • 管理人選任中に発見:本人が連絡可能なら協議に復帰。未了の売却等は必要なら再許可や条件調整
  • 失踪宣告確定後に生存判明:宣告の取消し権利回復の調整が生じ得ます(登記や分配の再調整が必要な場合あり)
    実務の備え:
  • 区分管理と書面化(台帳・契約書・許可書)で透明性をキープ
  • ✅ 連絡再開後の本人確認手順(身分証・署名・印鑑証明)をチェックリスト化

まとめ:相続人行方不明でも止めないための最短ルート

「どこから動けばいいか分からない」。その迷いを断つには、順番と根拠を決めることです。まずは証拠化→裁判所ルート→許可→実行。当面の現金確保か、長期確定かで手段の主軸を選べば、今日から一歩進みます。星川が最後に道筋をもう一度、短く置いておきますね。

ケース別の使い分け指針(当面の現金化/長期見据え)

  • 当面の現金化が最優先
    • 不在者財産管理人+許可申請を主軸に。
    • 先にやること:探索の証拠化申立複数査定売却・払戻しの必要性を資料化。
    • 現金は区分口座・供託で厳格管理、保存費用の精算を並走。
  • 長期の法的確定を重視
    • 失踪宣告(普通7年/特別1年)で死亡擬制を得て、以後の手続を軽くする。
    • 先にやること:最終消息の立証、公告や証拠の準備、宣告後の登記・解約計画を先読み。
  • 管理者が不在/相続人多数不明
    • 相続財産管理人一体管理・換価・配当。空き家や債務対応を中立処理
  • 書類が届かず止まる
    • 公示送達で期日を動かす。不達封筒・照会履歴の束を用意。
  • 迷ったら
    • 判断軸は期間×費用×リスク(価格下落・事故・税期限)
    • 数字で比較し、小さく試す→早く決めるが正解に近道。

迷ったら「証拠化→申立→許可取得」の王道手順

  1. 証拠化
    • 戸籍連続・附票・不在住不在籍民間照会ログ不達証拠時系列で束ねる。
    • 空き家は写真・見積・事故リスク数字で表現
  2. 申立(不在者財産管理人を軸に)
    • 申立書に目的を一行(保全/換価/配分)で明記。
    • 予納金管轄は事前照会、補正ゼロで通す。
  3. 許可取得(処分行為)
    • 必要性×価格相当性複数査定・近隣成約・路線価で三点支持。
    • 払戻しは使途(税・保存費)を明示、代金は区分管理
  4. 実行・精算
    • 売却・払戻し→調停または審判確定→相続登記→税務の順で一直線。
    • すべて台帳・証票で見える化し、後日の発見・異議にも耐える運用に。
  5. 続けるための最小ルール
    • 週1・15分の定例/代表者制/「誰が・いつまでに・何を」の3点固定。
    • 迷ったら、この順番に戻る——順番が解決の9割です。