遺言書が2通見つかると「どちらが本物?」と親族が分裂しやすくなります。争いを避けるための手順と判断ポイントを解説します。目次を見て必要なところから読んでみてください。
68歳で遺言書が2通見つかり親族が分裂した場合、まず何をすべきか
突然の相続で、2通の遺言書が出てきたら…心も頭も混乱しますよね。しかも親族が分かれてしまえば、冷静な話し合いはどんどん難しくなります。この章では、感情的な衝突を最小限に抑えながら、最初に取るべき手順を整理します。焦って動くと後で大きなトラブルになるので、順番が大事なんです。
遺言書が2通あるときに考えるべきステップ
まずは深呼吸して、次の流れを意識してください。
✅ 勝手に開封しない(家庭裁判所での検認が必要)
✅ 日付の確認(新しい遺言が優先される可能性大)
✅ 保管状況を記録(誰がどこで見つけたか)
✅ 専門家に相談(第三者の視点が争い防止になる)
特に「勝手に開封しない」は大事です。封がされた遺言書を家族で開けてしまうと、証拠力が揺らぐことがあります。
「どちらが本物か」争いに発展する理由とは
遺言書の争いは、ほとんどが「感情」と「お金」の交差点で起こります。
- 「こっちの遺言の方が父らしい」といった感情的判断
- 財産配分が大きく変わることによる利害の衝突
さらに、遺言作成の時期や健康状態に疑問が出ると、「無理やり書かされたのでは?」という不信感も加わります。この不信感が、親族間の関係を一気に悪化させるんです。
本物の遺言書を判断するための基本ポイント
本物かどうかを見極めるには、形式と内容の両面から見ます。
- 日付の新しさ(ただし形式不備があると無効)
- 署名と押印(本人の筆跡かどうか)
- 証人の有無と条件(公正証書遺言なら証人2名以上)
たとえば、自筆証書遺言で日付が抜けていたり、署名が不鮮明だと、その遺言は無効と判断されることもあります。逆に、形式がしっかり整っていれば、公正証書遺言でなくても有効になることもあります。
あなたが今すぐできるのは、「どちらが最新で、形式を満たしているか」を冷静に確認すること。それが後の手続きの土台になります。
遺言書の形式と効力の違いを見極める
遺言書が2通出てきたとき、その効力は「形式」と「作成日」で大きく変わります。形式によっては、見た目は立派でも無効になるケースもありますし、逆に簡易的に見えても法的に強い場合もあるんです。ここでは代表的な形式と、効力の判断ポイントを整理します。
自筆証書遺言・公正証書遺言の違いと法的強度
遺言書にはいくつか種類がありますが、特に多いのが自筆証書遺言と公正証書遺言です。
形式 | 作成方法 | 法的強度 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 本人が全文・日付・署名を自筆 | 中程度 | 費用がかからず自由に書ける | 形式不備で無効になるリスク |
公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成 | 高い | 形式的に無効になる可能性が低い | 作成費用・証人が必要 |
✅ 公正証書遺言は裁判でも強い証拠力がありますが、自筆証書遺言でも正しく作成されていれば有効です。
いわゆる「後日修正」「上書き」の扱いと注意点
遺言は一度書いたら終わりではなく、後から書き直すことができます。
ただし、修正方法を誤ると「そもそも修正部分が無効」と判断されかねません。
- 修正には本人の署名・押印が必要
- 新しい日付の遺言が原則的に優先
- 修正が不完全だと、元の内容が残ってしまう
特に自筆証書遺言での上書きは要注意。訂正印や署名の抜けがあると、裁判で争点になりやすいです。
期限切れや形式不備で無効になり得るケース
遺言書に「有効期限」はありませんが、形式不備や作成時の状況で無効になることはあります。
代表的な例は次の通りです。
- 日付が欠けている
- 署名や押印がない
- 作成時に判断能力が不十分だったと証明される場合
- 公正証書遺言なのに証人の条件を満たしていない
これらの不備があると、せっかくの遺言も効力ゼロになります。だからこそ、2通の遺言が出てきたときは「どちらが形式的に有効か」を丁寧に確認することが欠かせません。
検認手続きによる遺言書の開封と確認方法
遺言書を見つけても、すぐに封を切ってはいけません。家庭裁判所での「検認」を経ないと、その遺言書の存在や状態が正式に記録されず、後の争いで「改ざんされたのでは?」と疑われる恐れがあります。この章では、検認の流れとその意味を、できるだけわかりやすく整理します。
家庭裁判所への検認の申立て方法
検認とは、遺言書の形式や内容を確認し、現状を記録する手続きです。申立ての主な流れは次の通りです。
- 申立先:被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 必要書類:
- 検認申立書
- 遺言書の原本(封がある場合はそのまま)
- 戸籍謄本(被相続人と相続人全員分)
- 相続人全員の住所証明
- 費用:収入印紙800円+郵便切手(裁判所指定)
✅ ポイントは、「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」には検認が必須ということです(公正証書遺言は不要)。
検認によって「開封」できるメリットと注意点
検認を受けると、家庭裁判所で遺言書が正式に開封されます。そのメリットは次の通りです。
- 遺言書の状態(破損や訂正)を公的に記録できる
- 相続人全員が内容を一度に確認できる
- 後から「改ざん」の疑いをかけられるリスクを減らせる
注意点としては、検認は遺言の有効性を判断する手続きではないということです。あくまで現物を開封・確認して記録するだけなので、「本物かどうか」の結論は別の段階で判断されます。
検認後にできる効力の判断方法とは
検認が終わると、遺言書のコピーと検認調書が交付されます。ここから効力を判断するために確認すべきは以下です。
- 形式面の有効性(署名・押印・日付・証人条件)
- 作成日時の新旧(新しいものが優先されやすい)
- 健康状態や作成時の判断能力に問題がなかったか
場合によっては筆跡鑑定や証人の証言を求めることになります。特に複数の遺言がある場合、どちらが有効かを争う際の基礎資料になるのが、この検認後の記録です。
遺言書の真贋を争う際に活用できる証拠と専門家の役割
遺言書が複数ある場合、どちらが本物かを判断するためには、感覚や印象だけでなく、客観的な証拠が必要です。特に筆跡や作成時期、証人の存在など、細かい点を検証することで、有効かどうかの結論に近づけます。この章では、証拠の見方と専門家の活用法を解説します。
筆跡鑑定や日付・証人記載のチェックポイント
筆跡鑑定は、遺言書の真贋を争う場面でよく使われます。確認すべき主な項目は以下の通りです。
- 筆跡の一致度(署名や本文の特徴が本人と一致しているか)
- 日付の記載方法(和暦・西暦の違いや、筆跡の変化)
- 証人の署名・住所(条件を満たしているか)
- インクや用紙の種類(当時の状況と合っているか)
✅ たとえば、本人の病気や加齢によって筆跡が変わることもあるため、「一致しない=偽物」とは限らない点に注意が必要です。
専門家(弁護士、司法書士、鑑定人)への相談の流れ
複数の遺言書が出てきて争いになりそうなときは、早めに第三者の専門家を入れるのが賢明です。流れの一例は次のとおりです。
- 弁護士に相談し、法的な有効性や手続き方針を確認
- 必要に応じて司法書士が相続登記や書類作成をサポート
- 筆跡鑑定人や文書鑑定士に鑑定を依頼
- 得られた証拠をもとに、相続人間の交渉または裁判手続きへ
この流れを踏むことで、主張の根拠が明確になり、不要な感情的対立を減らせます。
鑑定結果を争いで使う際の実務上の留意点
鑑定書は強力な証拠になりますが、絶対的な決定力を持つわけではありません。裁判所は複数の証拠を総合的に判断します。
- 鑑定人の経歴や信用性が重要
- 鑑定の対象や範囲を明確にする
- 相手側が別の鑑定を依頼してくる可能性もある
また、鑑定結果が自分に有利でも、それだけで相手が納得するとは限りません。交渉や調停と並行して、関係修復や合意形成を目指す視点も欠かせません。
親族間の争いを避けるためのコミュニケーション戦略
遺言書が複数見つかると、事実よりも先に感情の衝突が表面化することが多いです。兄弟間や親子間でのわだかまりが深まる前に、意識的に話し合いの進め方を整えることが、トラブルの長期化を防ぐ最大の鍵です。ここでは、実務と経験に基づいたコミュニケーションの工夫をお伝えします。
感情的な対立を防ぐための話し合いの工夫
感情が先に立つと、事実確認や冷静な判断が難しくなります。話し合いでは次の点を意識しましょう。
- テーマを一度に1つに絞る(例:「今日は遺言の日付だけ確認」)
- 時間制限を設ける(長時間になるほど感情が高ぶる)
- 事実と意見を分けて話す(「〇月〇日に発見」など)
- 録音や議事録で記録する(後の誤解防止)
✅ 大事なのは、「勝ち負け」ではなく「合意」をゴールにする意識です。
仲介役(第三者や専門家)を巻き込むメリット
争いが複雑化しそうなときは、第三者を間に入れるのが得策です。
- 専門知識による正確な情報提供(法律や手続き面)
- 感情のクッション役(直接言いにくいことを代弁)
- 中立的立場での記録管理(発言や合意内容を残す)
特に弁護士や司法書士などの専門家は、事務的に見えて実は「感情の調整役」としても重要な存在です。
遺言内容が争点になりがちなパターン別対応例
遺言を巡る争いは、パターンごとに対応策が変わります。
争いのパターン | よくある背景 | 有効な対応策 |
---|---|---|
財産配分の不公平感 | 特定の相続人に偏った内容 | 分割理由を確認し、特例や代償金案を提示 |
遺言作成時の判断能力疑惑 | 高齢・病気・介護中など | 医療記録や証人証言を収集 |
遺言内容の解釈の違い | 曖昧な表現や条件付き | 裁判例や専門家意見を参考に統一解釈 |
感情をぶつけ合うより、「事実」と「法的根拠」で会話することが、争いを収束させる近道です。
まとめ:遺言書が複数見つかったときに取るべき全体の流れ
2通以上の遺言書が見つかると、焦りや不安で判断を誤りやすくなります。けれども、「順番を守って進める」ことが何より大事です。この章では、ここまでお話しした内容を整理し、迷わず動けるように全体の流れをまとめます。
具体的なステップ一覧(検認→鑑定→開示→話し合い)
遺言書の真贋を確かめ、争いを最小限に抑えるための流れは次の通りです。
- 遺言書を勝手に開封しない(封書はそのまま保管)
- 家庭裁判所に検認を申立てる(現物と状態を記録)
- 筆跡鑑定や証人確認で有効性を精査
- 検認後に全員で内容を開示(情報の透明化)
- 中立的な第三者を交えて話し合い(合意形成を優先)
✅ どの段階でも「感情的にならない仕組み」を意識して動くことが、解決までの時間を短くします。
相続トラブルを防ぐために今後できる対策(遺言の事前整理など)
今回のような事態を未然に防ぐには、遺言を残す段階からの工夫が必要です。
- 最新の遺言書を一つに絞る(古い遺言は撤回・廃棄)
- 公正証書遺言で作成(形式的無効のリスク低減)
- 保管場所と存在を家族や信頼できる人に知らせる
- 内容や理由を事前に説明して誤解を減らす
遺言は「残す」だけでなく、「使われる時に混乱しないよう整える」ことまでが本当の役割です。今日の一歩が、将来の家族の平穏につながります。あなたの大切な人たちのためにも、早めの整理を意識してください。